心をほどく、花の色彩。高齢者と「フラワーセラピー」

花は、不思議な存在です。
ただそこに咲いているだけで、心がふっとやわらぎ、香りや色にふれると、いつかの記憶が静かに呼び起こされる。

「フラワーセラピー」という言葉を初めて聞く方もいるかもしれません。
でもその響きから、色とりどりの花に囲まれた、癒しの風景を思い浮かべるのは、誰にとっても共通のイメージではないでしょうか。

花がもたらす、五感へのやさしい刺激

フラワーセラピーとは、花の色・香り・手触り・かたちなどの感覚刺激を通じて、心と身体のバランスをととのえる「自然療法」のひとつです。

たとえば——

  • 花を見ながら、思い出を語ってもらう
  • 花びらにそっと触れて、やわらかな感触を味わう
  • 香りを吸い込むように深呼吸する
  • 一緒に花を生けるという、ささやかな共同作業を楽しむ

そんな小さなひとときが、気持ちをそっと緩めて、言葉にならなかった想いをゆっくりと引き出してくれることもあります。

色が、心を動かす

フラワーセラピーでは、色の持つ力にも注目します。

赤やオレンジの花には活力を引き出す力が、ピンクや黄色にはやさしさや安心感をもたらす働きがあるといわれています。
たとえば、
夏のひまわりの明るい黄色、秋のコスモスのやわらかなピンク——
花の色にふれたとき、昔好きだった庭の景色や、大切な人との記憶がふとよみがえることもあるでしょう。

「この花、昔好きだったのよ」
そんな一言が、その人にとっての“今日”を少しだけ特別なものに変えてくれるかもしれません。

本当は花を飾りたい。けれど——

こうした花の力は、本来であれば日常のなかに自然に取り入れたいものです。

しかし現実には、高齢者施設などの環境では、生花の持ち込みが衛生面や管理上の理由から難しいケースが少なくありません。

そんなとき、介護美容だからこそ、ケアビューティストだからこそできることがあります。
それは、「指先に、花の色を宿す」ことです。

指先の彩りで届ける“花の力”

ネイルは、小さな色彩のキャンバスです。
たとえば——

  • 好きだった花を思い出して色を選ぶ
  • 気分に合わせて、明るいトーンを試してみる
  • 花びらのアートを指先に咲かせてみる

そうしたささやかな彩りは、花を飾るのと同じくらい、心をやさしく動かす力を持っています。指先を見るたび、ほんの少し気持ちが上向いたり、自分らしさを取り戻したり。
ネイルには、色の力と共に、“自己表現”というもうひとつのセラピーの側面があるのです。

花が飾れない場所でも、花がくれる“心の豊かさ”は、ちゃんと届けることができる——
まさに、ケアビューティストの工夫と感性の出番なのです。

介護美容だからできること

花は、話さなくても、そばにあるだけで心を動かしてくれる存在です。
その人が大切にしてきた色、香り、記憶。
花はそれらを、そっと手のひらに返してくれます。

もし生花が飾れない場所でも、ケアビューティストの手によって、その“花の力”は指先からやさしく伝えることができます。

「あなたらしさは、今もここにあります」

その静かなメッセージを、花の色彩とともに届ける。
それは、ケアビューティストという仕事が持つ、力強さのひとつです。


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