「やってみたい」を引き出す、小さな仕掛け。心が動く介護美容 ――ケアビューティスト長田さんの話

介護美容の現場では、高齢者の「美容を楽しむ心」が、ちょっとした工夫や声かけをきっかけに動き始めます。

緊張をほぐす空間づくりや、安心して参加できる言葉がけ。
そして、美容に対する迷いや遠慮を少しずつ和らげ、「参加してみようかな」という前向きな気持ちへ変えていくこと――それこそが、ケアビューティストの大切な役割です。

今回は、川崎・横浜を拠点に活動を続けるケアビューティスト・長田(おさだ)さんにインタビュー。現場で大切にしている、“心を動かす”アイテム選びについて伺いました。


長田 佐紀さん
(2024年9月 介護美容研究所卒)

音楽大学卒業後、テーマパークダンサーやダンス講師として活躍。出産を機に事務職・アパレル職を経て、現在は訪問美容活動に従事しながら、幅広い経験を活かして介護美容研究所の授業サポートにも携わっている。

介護美容研究所入学後の取得資格:初任者研修修了/ガイドヘルパー


空間を変える、非日常の特別感

現在、長田さんは週4日ほど介護美容研究所のオフィス業務に携わりながら、複数施設への定期訪問や個人活動をパワフルにこなしています。
「現場へ行くのが本当に楽しみ」と語る長田さんのマストアイテムは、たくさんの造花です。

施設へ着くと、まずテーブルや椅子を花で飾り、会場を少しずつ彩ります。
開催メニューを写真入りでまとめた手作りボードもセッティングして、「今日は何をするのか」が一目で伝わる安心感と、その日だけの特別感を演出していきます。

季節に合わせて花を入れ替えたり、施設の利用者様に人気の色を取り入れたりと、その日のケアを思い浮かべながら準備をするそうです。

20代の頃はテーマパークダンサー、その後はダンス講師として「人を楽しませること」「非日常の時間を演出すること」を体現してきた長田さん。
活動の舞台は変わっても、「目の前の人を笑顔にしたい」という想いは変わりません。

「選ぶ楽しさ」が、気持ちまで華やかにする

メイク施術の日には、数種類のスカーフを持参しているという長田さん。
スカーフを身につけるだけで、まるでおしゃれをして出かける日のような装いになり、写真を撮れば、普段着であることが気にならないほど華やかな一枚になるそうです。

“きれいにしてもらう”だけの時間ではなく、自分で色やデザインを選ぶという機会が加わることで、より充実した満足感や楽しみにつながります。

「この写真、家族に見せたいわ。」
――そんな言葉や笑顔を自然と引き出す長田さんのメイク訪問は、見た目だけでなく、その方の気持ちまでそっとドレスアップしてくれるような、特別な時間になっています。

現場を支えるアイテムの選び方

高齢者の気持ちを動かす工夫を大切にする長田さんには、アイテム選びについても明確な基準があります。

普段使用しているのは、低刺激性に配慮されたブランドのほか、介護美容研究所オリジナルのMIRAI++(ミライプラス)スキンケア。現場の声をもとに開発されていることもあり、高齢者の繊細な肌にも安心して使用できると話します。

高齢者への肌負担を抑えながら、限られた時間で美しく仕上げる。
信頼できる成分設計や、使い心地の良さが、スピーディーかつ丁寧なケア現場を支えていました。

エプロンがコミュニケーションツールに

長田さんが「活動を始めてから、思いがけず大切な存在になった」と話すアイテムが、訪問時に身につけるエプロンです。

主婦として長年暮らしてこられた多くの女性にとって、エプロンはとても身近な存在。だからこそ、会話が弾むきっかけになるといいます。

長田さんにとってのエプロンは単なる作業着ではなく、高齢者との距離を縮め、「また来てくれた」と安心していただくための、重要なアイコンになっています。
そのため現在は、ワンピースのようなやわらかなデザインなど、親しみやすい印象を与えるものを意識して選んでいるそうです。

アイテムで心のバリアをやさしくほどく

夏場に人気のヘッドトリートメントでは、ひんやりと爽やかな頭皮用スプレーを愛用しています。

身体介護を受けている方の中には、「今日は髪を洗えていなくて申し訳ない」「頭皮に触られるのが恥ずかしい」など、清潔感への不安から、美容サービスをためらわれるケースも。
そんな心の負担を軽くするために、長田さんはスプレーの爽快感や香りの効果を上手にお伝えしながら、安心して施術を受けていただける雰囲気を作り出して、心のハードルをやさしく下げていくのです。

また、長田さんが「安全で良質なものを」とこだわって選んでいるのがアロマです。
空間演出やレクリエーションで活用する際に、ラベンダー・オレンジ・ヒノキの3種類は、いつも持参していると言います。

“美容”と聞くと身構えてしまう方でも、馴染みのある香りなら自然に受け入れやすいもの。
どなたでも安心して楽しめるように選択肢を用意しておくことも、介護美容のプロならではの誠実な配慮です。

「やらない」を「やってみようかな」に変える寄り添い

介護美容の現場では、「私はいいわ」「恥ずかしいから」と参加を断られてしまうことも少なくありませんが、長田さんは、その言葉をすぐに”拒絶”とは受け止めません。

断わりの言葉の裏には、未知の体験への不安や、謙遜、遠慮の気持ちが隠れていることがあります。

その”迷い”に目を向けて、相手のペースに寄り添いながら、一歩分だけ背中を押してみる。その”小さな一歩”なら、踏み出せる方が意外と多いといいます。

長く訪問している施設では、「爪は目立たない薄いピンクがいい」と話していた方が、次第に濃い色やネイルシールをご希望されるようになるなど、美容の好みや意欲への変化を感じているそうです。

美容は、自分なりの「好き」を少しずつ育てていくもの。
訪問を重ねるたびに変わっていく、それぞれの「好き」のかたちを間近で見られることも、この仕事の大きな魅力だと長田さんは話します。

プロとして、忘れてはいけないこと

インタビューの最後、長田さんはこんな話をしてくださいました。

目の前にいるのは、自分よりもずっとデリケートな肌を持つ高齢者。
そのことを忘れずに一つひとつのアイテムを丁寧に選ぶ姿勢こそが、高齢者の安全を守り、また、長く信頼されるケアビューティストであり続けるための土台になります。

ケアの技術やレクリエーションのアイデアだけではなく、何より大切なのは、「ケアビューティストとしての誠実な心構え」。そうした在り方が高齢者の心を動かし、また会いたいと思っていただける時間につながっていくのだと感じました。


選ぶアイテムのどれもに込められていた、「目の前の人に安心して美容を楽しんでほしい」というあたたかな想い――。

介護美容は、ただ美容を提供することだけが目的ではありません。
その人が前向きになれるきっかけをつくり、笑顔や自信につながる特別な時間を届けること。

長田さんの現場には、そのための真摯な工夫と、プロフェッショナルな精神が満ち溢れていました。


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